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北丹沢12時間山岳耐久レース |
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<作戦のない作戦>
昨年無事に完走したという過信が 己の甘さを露呈する。
「区間ごとの目標タイムや通過時間などは決めないで自分のペースで走ってみよう」 そんな無計画な状態でレースに臨んだ。
というより、計画を立てる時間がなかったというのが本音かもしれない。
今回は仕事の疲れとトレーニング不足から体調はあまり良くないので、スタート直後はゆったりペースをキープし体力温存につとめようと考えた。
昨年は前半で貯金を作る事に専念したが、まったく正反対の作戦だ。この作戦が何を意味するか、経験者ならすぐにお分かりだろう。
スタートと同時にその意味が解きほぐされて行く。さあ、はじまり、はじまり。
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<スタート>
今年は、パラダイス企画の仲間たちとささやかな前夜祭を行った。編集長のえくんちょ、ナゾの北京帰り蚊取線香、
そしてパラダイス企画鈍足の貴公子北リタで、お互いの健闘を称え合った。
レース当日の朝、スタートラインに付くと、既にランナーたちがひしめき合っている。
しかし、ブラッキーの姿は見えない。今年は不参加のようだ。富士登山は出るのであろうか。
前回は先頭集団のやや後方からスタートしたが、今回は‘のんびりスタート’の方針から中盤あたりに陣取ってスタートする事にした。
2006年7月2日午前7時ちょうど、レーススタート。走り始めると他のランナーにどんどん抜かれる。
昨年に比べてやや遅いペースだが、この微妙なスピードの差で順位が大幅に変わってしまうことが実感できた。
「まあ、体力を温存して後半ペースダウンしなければOK」と、マイペースで林道の坂道を登り続けた。
林道から山道に入るところで恒例の渋滞が始まった。
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<まさかの15分遅れ>
渋滞は一向に解消せず立ち止まったままの状態が続く。昨年も渋滞に巻き込まれたが、ちょっと様子が違うなと心配になった。
時間を計っていないので、正確には分からないが10分程足止めをくらったようだ。やっと隊列が動き出し最初の小さな峠を越えた。
時計見て唖然とした。午前7時50分。なんと、ここまで50分もかかってしまった。この僅かな距離で昨年より15分も遅い。
スタート直後の順位が後方になればなるほど巻き込まれる渋滞の激しさが加速度的に大きくなるのだと実感した。
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<戦意喪失>
峠を越えて山の斜面を軽快に下る。気持ちがいい。やがて沢状の所に降り立つと平らな道になる。そして林道を走る。
後方からすごいスピードで何人かの選手が北リタを追い越して行く。「強い人は渋滞の遅れもこうやって簡単にリカバリーするんだな」
そんな事を考えていると急に左足の膝の後ろに違和感。経験上この違和感の後に膝が痛くなる事を知っていたので若干ペースを落として林道を走る。
目の前に緩やかな登り坂が現れてきた。「あれ?走れない。体が重い。」 昨年、意識もしなかった目の前の坂道が急傾斜に感じる。
辛くて走るのをやめて早歩きに変える。気分的に全身がだるく呼吸も苦しい。
「今回はダメかな?」そんな言葉が脳裏を横切る。
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<ミミズの身代わり地蔵>
目の前を走っていた女性が突然「ぎゃー」っと叫んで横に瞬間移動。
なんと大きなミミズがアリの大軍に襲われてのた打ち回っていた。 走りながらチラッとその光景を眺めて
「あのミミズの苦しみに比べれば俺の苦しみなんてちっぽけなもんだ」そう思うと少しからだが軽くなる。ミミズよ…苦しいが頑張れよ。
やがて神ノ川キャンプ場に到着する。時計を見ると午前8時35分。スタートしてから1時間35分。
「なんだ昨年の目標時間と比べても5分も早く着いた!」 思った以上にペースが速いと思うと気が楽になった。
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<饅頭とおやじ>
神ノ川キャンプ場で水を補給していると、饅頭を食っている年配ランナーが僕に声をかけてきた。
「すいません。まんじゅう持ってき過ぎたので少し食べてくれませんか」
「ありがとうございます。でも結構です」と丁寧に辞退するも、
心の中では、「誰がつぶれてアンコがはみ出したまんじゅうなんて食えるかー」と不快指数100%。
おやじはどうも温泉帰りらしく5×5の25個入りを持っていた。北丹沢に土産は不要。
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<大きな勘違い>
実は先ほどの‘神ノ川キャンプ場に思ったより早く着いた’は大きな勘違いだった。
昨年の目標は1時間20分だった。もちろん今年も1時間20分以内に到着しなくては第2関門の通過は苦しくなる。
しかし何故か頭の中で1時間20分が1時間40分にすり替わっていた。そんな危機的な状況に気付く事なく、呑気に鐘撞山へと登り始めた。
体は重く 調子が悪いが、昨年とあまりタイム的に変わらないと信じ込んだ北リタは益々マイペースの世界に埋没してゆく。ほとんどハイカーのペース。
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<井の中の蛙>
鐘撞山到着午前9時49分。スタートしてから2時間49分。
※この時北リタは気付いていないが、神ノ川キャンプ場からの区間タイムで20分以上も昨年のタイムをオーバーしている。
山頂では大会関係者がランナーを励ます。
「距離にして3km、標高差で400m登れば、あとは3kmの下りで第一関門です。ここは標高900mですよ。」
という事は、第一関門手前の最高到達点は1300mってことじゃん。
昨年の北リタ計測では1305mだったのに対してパンフは1400mになっていたのを思い出す。
「俺の方が正しかった」 しばしの優越感に浸る。ここから1300m地点まで渋滞が永遠と続くが、北リタにはちょうど良いスピードだ。
もう人に抜かれる事は殆どなく、次々に隊列からはじき出された落伍者をパスしながら進んだ。
今までのレースでこんなに人を抜くのは初めてだ。相対的に自分が優位にいる状況に気分が良く足取りが軽くなる。
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<団子>
1300m地点(昨年から100m格落ち)に到着。雨が降ってくる。時計を眺めると午前10時49分。
第一関門ゴール閉鎖まで41分しかない。ここで初めて、自分のペースが昨年に比べて大幅に遅れている事に気がつく。
昨年は、この時間には既に第一関門を通過していた。 「やばい!」 北リタ記者マジ顔になる。あわてて山の斜面を駆け下りる。
下り始めると、ちょうど良い長さの木の枝が落ちていたので拾って杖にする。そして、雨は風を伴い横殴りの雨になる。
杖のおかげで、雨でぬれた泥道も難なく走り下る。樹林帯に入ると、前方に10人くらいの集団が団子状態になっている。
近づいてみると更にその先にも別の集団が団子状態になっている。よくよく観察すると、団子状態は連綿と谷底に向かって続いている。
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<怒号の飛び交う怒涛の第一関門>
雨の中とうとう大渋滞に巻き込まれてしまった。走るスピードがガクンと落ちる。時計を見る午前11時15分。
第一関門閉鎖まであと15分なのに、まだ河原すら見えてこない。焦る気持ちを抑えようとするが時間はどんどん過ぎてゆく。
「おーい、集団の先頭にいる奴は道をあけろー!」 後方のランナーがイライラ声で叫ぶ。
「すいません。ちょっと先に行かせて下さい!」 すぐ後ろの女性ランナーが北リタに声をかけてくる。
北リタは後ろを振り向き、譲るスペースがない事を視線で訴える。
「早く道をあけろー!第一関門に間に合わないぞー!」 再び後方のランナーが叫ぶ。
「急いでいるのは皆同じだ!!自分勝手なこと言うな!」下方にいるランナーが叫ぶ。
「集団の先頭は第一関門の先じゃないですかね〜?ここから叫んでも聞こえませんよー♪」
すぐ目の前のランナーが毒を吐く。
泥道に足をとられて杖に体重をかけた瞬間、杖(拾った木の枝)が真っ二つに折れ、派手に尻餅をつく。
そのまま、折れた杖を捨てて走り出そうとすると、「木が邪魔だー!」と後続ランナーに怒鳴られる。
振り向いて「すいません」と頭を下げて再び走り始める。
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<絶体絶命!第一関門>
ガレ場を下り再び樹林帯に入ると足下に河原が見えてきた。時計を見ると11時25分。あと5分、絶体絶命。
渋滞は緩和したものの人を抜く事は難しい。河原のほとりを走り、橋を渡ると、第一関門が見えてきた。
時計の針は11時29分を指している。 ここら給水所横を通り、Uターンをして第一関門まで登り返すのは1分では不可能だ。
「終わった。」 虚しい気持ちになる。
と その時、「閉鎖まであと3分」 第一関門の役員の声が聞こえてきた。
一瞬耳を疑ったが、次の瞬間自分の時計が2分進んでいることを思い出した。不幸中の幸い。
北リタ、狂ったようにダッシュをする。が、なかなか前へ進めない。目の前のランナーの僅かな隙間に強引に割り込むように前進する。
バナナをちらっと横目で眺め 急カーブを曲がると林道の登りとなる。ダッシュするには辛い坂道だが必死に走る。
久しぶりでマジに走る。爆発寸前の心臓が口から飛び出しそうになる。目の前に第一関門が見えてきた。
11時29分35秒、関門閉鎖25秒前。第一関門をどうにか時間内で通過。
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<心の葛藤>
第一関門は通過したが、この時間では次の第二関門は絶対に間に合わない。
このままリタイアか、それとも駄目もとで第二関門まで進むか悩む。
この激しい雨の中、えくんちょ、蚊取線香は悪路の山岳地帯でレースを戦っているに違いない。
僕だけが収容バスに揺られて安住の地へ戻ってよいのだろうか?葛藤する北リタ。再び横殴りの雨が体を襲う。
「おー、冷たい!」
風雨に萎縮した北リタは、山に背を向けて収容バスに向かって歩き始めた。
自分に負けた。
そしてレースは終わった。
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<激しい雨>
収容バスの中は悲惨だった。隣で居眠りしている選手は全身泥だらけ。特に右の肩に大きな泥団子が付いている。
バスが揺れるたびに、その泥団子は北リタの左腕にくっつく。逃げようとするが座席が狭くて身動きが取れない。
会場に付く頃には、北リタ記者の左腕に泥団子移植完了。
会場に戻ると雨はますます激しくなる。女子のトップがちょうどゴールした。余裕の表情でインタビューに答えている。
そして、上位の選手たちが続々とゴールしてくる。例外なく泥だらけになった選手たち見ると今回のレースの激しさがうかがわれる。
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<突然の太陽>
午後1時30分からの表彰式が始まる頃、突然太陽が顔を出した。
激しい雨から一転、真夏の太陽が顔を出しジリジリと肌を焼く。
スタート直前に大会本部が発表した「曇りのち快晴」の天気予報はみごと当たった。
しかし、あの雨は一体何だったんだろう。山の神様の気まぐれか。
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<暇な応援団>
暇を持て余した北リタはゴールしてくる選手達を応援する事にした。
ゴール200mくらい手前の山道の最終コーナーで山から無事に戻ってきた選手たちを拍手で迎えた。
北リタが立っていた場所は、選手が間違えて直進してしまう所らしい。
選手の二人に一人はコーナーを曲がらず、北リタに向かって直進してくる。
その都度、「コースはこっちですよー」と誘導しているうちに、応援モードから誘導モードに。
選手からは「大会お疲れ様でした」とか「一日ありがとうございました」とか声をかけられて完全に主催者気分。
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<怪しい大会関係者>
北リタが誘導している場所から50mほど山側で大会関係者らしい人が選手たちを誘導している。
大きな声で励ましたり、ハイタッチをしたり、時にはカメラを向けて写真まで撮っている。
ずいぶんとサービス精神が旺盛な人がいるもんだと思った。
そういえば、山道から降りてきて、いきなりキャンプ場のほうに曲がろうとして、誘導員に取り押さえられている選手を何人か見た。
「ゴールが目の前に見えてるのに・・・」と何度も思った。最終段階での細かなコースの案内が不明瞭すぎる。
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<魔法のホウキに乗ったえくんちょ>
レースが始まって9時間が過ぎた。昨年に比べて今年はコンディションが悪いから、「えくんちょが戻ってくるのは10時間半くらいかな」
じっとしている事の苦手な北リタは、よちよちとコースの逆走を始める。
そんな余力があるなら、リタイアするな ――― 神の声。。。
コースを逆走してまもなく林道に出た。林道をさらに進もうか否か考えていると、
トンネルの暗闇からえくんちょが突然現れた。予想外に早い時間に目を疑う。
それもちゃんと走ってる。杖も持ってない。
完全にランナーモード。戦いモード。感動。時計を見ると、まだ午後5時になっていない!
「10時間切れるよー!」 思わずえくんちょに声をかける。
「本当は9時間4●分を狙っていた(笑)」 とさりげない返事。
北リタ意味が分からず「なんで、そんな中途半端な時間???」
※後日ナゾが解けた。北リタの去年のタイムが9時間4●分。うー、奴は狙ってたのか。。。
そして林道から最後の山道に飛び込んで行くえくんちょ。北リタ背後から伴走するように付いてゆく。
山岳地帯の悪路を40km以上も走ってきたとは思えないえくんちょの軽やかな足取りに感動する。
えくんちょはとうとう魔法の箒を手に入れてしまったのか・・・
しばらく後ろを付いてゆくと、なんとなくストーカーになった気分になる(笑)
とその時、えくんちょが突然こちらを振り向きハイ・ポーズ。
フライデーされた北リタは動揺のあまり、ぬかるみに足を取られ尻餅をつく。着替えた後なのに・・・
着替えといっても昨日の洋服をリサイクルしただけだが・・・(笑) とにかく着替えはもうない。
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<怪しい大会関係者の正体>
怪しい大会関係者は実はクロワッサンだった。「はじめましてー、北リタでーす。宜しく!」
えくんちょはクロワッサンに会えたのが嬉しかったのだろう、笑顔でゴールを目指して走って行った。
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<ゴール andスタート>
やがて蚊取線香もゴールし、2006年の北丹沢の短い夏は終わった。速くなったえくんちょに北リタは何処まで追いつくことが出来るか・・・
出来ることなら勝ちたい。いや、無理をせず完走する事を考えなければ・・・日々葛藤する北リタ。
えくんちょがタイムを短縮した以上に、あのしっかりした軽やかな足取りが北リタの脳裏から離れない。
毎晩うなされる北リタ。2007年の北丹沢に向けて、激しいバトルがすでに始まっている。
老体にムチ打って北リタは何処まで復活できるか、さあ、お楽しみはこれからだ!!! (地井武男フォー 笑) そして・・
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北リタは 昨年失いかけた伝説の名前を不動のものにした(爆) THE END!
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